4月17日、26時のマスカレイドが発表するなど、2020年初頭からの新型コロナウイルスのまん延を受けて活動休止・解散するアイドルグループや、グループからの脱退・引退を決めるメンバーが後を絶たない。そして、過日、そんなアイドルシーンの移り変わりをデータ化し、アカデミックの現場で発表したアイドルがいる。元・回せ!グルーヴ開発部(以下「回グル」)の雲野ぼんさんだ。
この3月まで筑波大学大学院でデザインを学んでいた雲野さんは、修士制作として「コロナ禍地下アイドル大図解」を発表した。
その内容は、2019年と2020年、つまりコロナ禍前後のライブハウスの店舗数や経費、解散・脱退を表明するアイドルグループとメンバーそれぞれの理由などを調査。それらをグラフや図版にまとめて対照させる"大曼荼羅”とでも呼ぶべき全高3メートルのパネル作品を作り上げている。
2020年末まで自らもそのシーンの一翼を担っていた彼女。そんな当時の現役プレイヤーがなぜ自身を取り巻くアレコレを研究するに至ったのか? また調査から見えてきたコロナとアイドルの関係とは? 大いに語ってもらった。
「卒業後アイドルだけやりたい」と言ったら親にメッチャ怒られて
なぜコロナ禍前後のアイドルシーンをマッピングしてみようと?
- 雲野
それを説明するためにまず「なぜデザインを勉強していたのか」と「なぜアイドル活動を始めたのか」をお話ししていいですか?
お願いします。
- 雲野
大学に入ったときは父の影響もあって建築を専攻していたんですけど、2年くらいやっているうちに「ちゃうわー」ってなって(笑)。情報デザインに専攻を変えたんです。そこは「体験をデザインすることを学ぼう」という学科なんですけど、普通に大学生をやっていると実際に学外を巻き込んでまで体験をデザインすることなんてそうそうなくて……。課題を出されても、私を含めて学生のほとんどが妄想で終わっちゃう。「こういうことがあったらいいよね」「こうなったらいいな」という願望をもとに作品を制作しがちなんです。でもそれじゃあ面白くないし、もともとアイドルに憧れがあったから「じゃあアイドルグループを作って、経験してしまえ!」ということで2019年に回グルを始めたんです。
実は学問的に興味関心のあった分野とアイドル活動は密着していたってことですか?
- 雲野
そうなんです。"アイドルという体験”をデザインしてみたいな、って。大学院に入った理由もアイドルを続けたかったからですし。
「アイドルを続けたいから進学した」?
- 雲野
大学4年のときに家族会議があって「卒業したらアイドルだけやりたい!」って言ったら両親にメッチャ怒られまして……。「プー太郎は許しません!」「アイドルを続けたいなら学生を続けなさい!」って言われたので「ヤだー!」って言いながら進学しました(笑)。
大学院の志望動機は「アイドルを続けたいから」「保護者に叱られたから」(笑)。そして、2020年末に回グルは解散しました。やっぱり、回グル自体も今回の研究対象にもなったコロナが原因だったりするんですか?
- 雲野
そうですね。回グルの解散理由はいくつかあるんですけど、私はその中でもコロナって少なからず理由のひとつではあった気がしていて。ただ、メンバーの(怠田)ユニちゃんと(環)杏ちゃんは「いや、コロナのせいじゃないよ」「コロナって言葉は使いたくない」と。もちろん回グルの解散理由はコロナではないし、それよりもほかの理由があって解散に至ったわけで。だから解散のお知らせには「コロナ」とは書いてないんですけど……。
怠田さんには怠田さんなりの理由、環さんには環さんなりの理由があるでしょうしね。でも雲野さんはコロナの影響を感じていた?
- 雲野
解散してから修士制作を始めるまでの1年のあいだに「グループ活動に対する気持ちや考え方が変わるトリガーにはコロナというものが少なからずあったでしょ?」「自粛期間に自分を見つめ直す時間があったからじゃない?」という思いがさらに大きくなってきていたので、ちゃんと調査してみようということで「コロナ禍地下アイドル大図解」(以下「大図解」)を制作してみました。実際、データを集めて分析したりして制作過程を論文形式でまとめた152ページのテキストを作ってからデザインしています。