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やすすの世界 〜君はまだ 本当の秋元康を知らない〜 その6・僕が見たかった青空『青空について考える』を勝手に解釈

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作詞家生活40年以上。積み上げてきたその数は4500曲にも及ぶ秋元康氏のアイドルソング。この連載では氏が書いてきたシングルにスポットを当てる。氏の歌詞は、一読しただけでは真に言いたいことを見落としてしまい、じっくり読んでも理解が追いつかない。そんな謎が行間のあちこちに潜んでいる。考えれば考えるほど単純ではない世界の深淵をのぞいてみませんか……?

6月、乃木坂46公式ライバルグループ「僕が見たかった青空」(以下、僕青)がそのヴェールを脱いだ。

 全メンバーは23人。イメージカラーは、グループ名にちなんで鮮やかなブルー。デビュー曲のセンターは八木仁愛(とあ)。東京都出身の高校1年生だ。  そのデビュー曲、タイトルは『青空について考える』。グループ名の一部がタイトルにまで使われている。衣装もブルーで、青を前面に押し出している。

 やすすは「青空」が好きだ。『青空のそばにいて』『青空カフェ』(AKB48)、『青空片想い』(SKE48)、『挑発の青空』(NMB48)、『青空よ 寂しくないか?』(AKB48+SKE48+NMB48+HKT48)、『世界はどこまで青空なのか?』(NGT48)、『何度目の青空か?』『孤独な青空』(乃木坂46)、『青空が違う』(青空とMARRY<欅坂46>)などが代表例だ。高見沢俊彦(Takamiy名義)に『青空を信じているか?』という曲を書き下ろしてもいる。『君は青空に似ている』(国武万里)なんて曲もある。

僕青の『青空について考える』は、文字通り、「僕たちにとって青空とは一体何なのだろう。改めて考えてみました」という意味だろう。歌詞を読み解いていこう。

 

主人公は「僕」。彼は、陽射しの中、大きく手を振り、半袖シャツを着た誰かを見ている。大人になった「僕」はその誰かを見て、羨ましくなる。「僕」は少年時代に描いていた「つまらない人間」そのものに成長してしまったらしい。だから、誰かがまぶしく見えるのだ。

 大人になった「僕」を待ち受けていた現実は、「ビルとビルに囲まれ」た毎日で、その結果、太陽が見えなくなってしまった。でも、「君」を見ていると、若かったあの頃を思い出す。希望に満ちたあの日々を――。

 そんな歌である。

 

「半袖シャツ」はやすすの歌詞に多用されるワードで、ここでは(制服の)が省略されており、いつだって若さの象徴である。「君」はその「半袖シャツ」を着て、笑い、太陽に向かって走る。こそばゆくなるような世界だが、僕たち大人はそんな一瞬を経験している。通学路ですれ違う中学生を見て、あるいは甲子園で泥だらけになる球児を見て。

 つまり、『青空について考える』の「青空」とは、希望とか青春という意味だ。

 大人が、青春時代のど真ん中を闊歩している誰かを見て、大切な何かを思い出せと言っているのだ。

 

大人になった主人公が若者を見ている視点の曲……、そう、あの曲が思い出された。

 SKE48に『あの頃の君を見つけた』(2021年)というシングルがある。この曲は、同グループのスーパールーキー・林美澪(当時12歳。現Seventeenモデル)がセンターで、簡単に受け取るならば、「林美澪を見て、2008年の松井珠理奈を思い出した」という意味なのだろう(ちなみに、『あの頃の~』にも「半袖のシャツ」が登場する)。

 乃木坂46の『人は夢を二度見る』(2022年)も、大人になった主人公の視点で「夢」を語っている曲である。

 また、NGT48の『情熱の電源』(2021年、『ポンコツな君が好きだ』のカップリング曲)も、大人の視点から、「あの頃の僕」が持っていた情熱がすっかり失われてしまったことを嘆いている。

 つまり、“大人視点による若者賛歌”はやすすの近年のブームと言ってよい。以前は、“若者視点による大人や社会への懐疑”のほうが圧倒的に多かったが(本田美奈子『Oneway Generation』、欅坂46『月曜日の朝、スカートを切られた』など挙げればキリがない)、徐々に比率が変わってきた。

 その昨今のやすすのブームをもろにグループ名に冠したのが、僕青ということになる。実際、僕青の平均年齢は16.9歳(お披露目時)。青春ど真ん中を生きている。

もしかしたら、僕青成功のカギは、やすすが思い描く青春感をメンバー自身が表現しきれるかどうか……ここに懸かっているのかもしれない。

 

やすすは僕青にどんな2ndシングルを持ってくるのだろうか? 他のグループにない青春感を描くことができれば、それがオリジナリティになり、僕青は案外早く化けるかもしれない。

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文/犬飼 華 イラスト/遊人