COLUMN

やすすの世界 〜君はまだ 本当の秋元康を知らない〜
その3 やすすの反戦ソングを勝手に解釈

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作詞家生活40年以上。積み上げてきたその数は4500曲にも及ぶ秋元康氏のアイドルソング。この連載では氏が書いてきたシングルにスポットを当てる。氏の歌詞は、一読しただけでは真に言いたいことを見落としてしまい、じっくり読んでも理解が追いつかない。そんな謎が行間のあちこちに潜んでいる。考えれば考えるほど単純ではない世界の深淵をのぞいてみませんか……?

 9月9日、STU48が『ミュージックステーション』に初出演した。STU48は結成5周年を迎えたばかり。活動6年目に入り、最高のスタートを切った。

 歌ったのは、『花は誰のもの?』。この曲は今年4月に発売された8枚目のシングルだ。4月発売の曲が5か月も経った今頃なぜ? そう見る向きに説明すると、この曲のダンスリリックビデオはYouTubeで220万回以上再生されており、『Mステ』以外の歌番組でも度々披露されている。ヒットのきっかけは空耳だったらしい。「もしこの世界から国境が消えたら」の歌い出しが「東京が消えたら」に聞こえるということで、SNS上で話題になったのだ。

 そんなことよりも重要なのは、この曲が明確な意図を持った反戦ソングであるということだ。

 この曲、どんな歌詞かというと、「国境という線引きがない世の中だったら争いごとなんてなくなるのに……。花を愛でる透き通った心が戦争なんて起きないのに……」と、ひたすら平和を願っている。

 そんな曲を、広島を拠点に活動しているSTU48が歌うから意味がある。

 説明するまでもないが、今年2月に勃発したロシアによるウクライナ侵攻を受けて作詞したものだ。

 広島出身のメンバーは1945年夏の悲劇を何らかの形で伝え聞かされているはずだし、広島市内の小学校から高校には「平和教育プログラム」というものがあり、市は熱心な平和教育に取り組んでいる。

 やすすは平和を願う曲を時折発表している。

 AKB48の『誰かのために~What can I do for someone?~』(2006年)には、「愚かな戦争を~」というフレーズがある。

 同じくAKB48の『目撃者』(2010年)には、「平和」「海の向こう」「悲劇」「武器を持たない市民」「愚かな国」といったワードがずらりと並ぶ。

 けやき坂46の『NO WAR in the future』(2017年)は、タイトルからわくイメージ通りの曲だ。

やすすは平和ソングを書くことに躊躇がない。21世紀のJ-POPにおいて平和をテーマに作詞することは完全にレアケースだが、テーマにすべきだと思い立ったら、やすすは書く。

 たとえば、『願いごとの持ち腐れ』(2017年)。当時、この曲の歌詞を一読したところ、何のことかさっぱり理解できなかった。

 1番では、もし魔法が使えたら何に使うだろうかと主人公(僕)が迷っているうちに日が暮れてしまう。ところが、2番で「僕」は「争ってる二人」に「仲良くして」と、その大切な魔法を使うことを決意する。

 ぼんやりとは分かる。あまりいい関係ではない「二人」に願いごとを唱えると、「世界中」が「微笑み」に溢れる――。そういうことを伝えたいらしいこの歌詞。うーん、まだ霧は晴れない。

 数日間、あれこれ悩んでいた折、テレビからニュースが流れてきた。北朝鮮とアメリカが極度の緊張状態にあると、アナウンサーが伝えていた。

 そうだ、これだ! やすすはこれを言いたいのだ。「二人」というのはたとえであって、「人」ではなく「国」だ。そう考えれば、簡単に読み解ける。

 反戦という「願いごと」を使わない状態(「持ち腐れ」)は平和。それが世界にとって一番穏やかなことではないか。やすすはそう言いたいのだ。やすすは北朝鮮情勢を汲みとって、この曲を書いたに違いない。

 この曲は、「NHK全国学校音楽コンクール中学校の部」の課題曲でもあるのだが、やすすは中学生に平和を考えるきっかけを与えていたのだ。

 また、この曲はいわゆる“総選挙シングル”でもあったのだが、もしかしたら……とその前年の総選挙シングルを当たってみると、2016年は『翼はいらない』。このMVはモロに学生運動をモチーフにしている。この2016年は集団的自衛権の行使などに踏み込んだ安保法制が大きな話題となり、各地で反対デモが起きた年。ヘイトスピーチという単語が広く知れわたったのもこの頃だ。

さらに、もしかしたら……とそのまた前年の総選挙シングルを当たってみると、2015年は『僕たちは戦わない』。タイトルからしてド直球の反戦ソングである。その頃、起きていた出来事といえば、イスラム国の台頭だ。

そう、2015~2017年の総選挙シングルは、反戦ソング3部作だったのだ。

 この大胆予想をAKB48の選抜メンバー数人にぶつけたことがある。どのメンバーも一瞬きょとんとしながらも、「だとしたら、ちゃんと歌詞を汲み取って歌わないといけないですね……」と神妙に答えた。それが救いだった。

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文/犬飼 華 イラスト/遊人

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