COLUMN

やすすの世界 〜君はまだ 本当の秋元康を知らない〜
その1 AKB48新曲『元カレです』を勝手に解釈

やすすの世界 〜君はまだ 本当の秋元康を知らない〜<br>その1 AKB48新曲『元カレです』を勝手に解釈

作詞家生活40年以上。積み上げてきたその数は4500曲にも及ぶ秋元康氏のアイドルソング。この連載では氏が書いてきたシングルにスポットを当てる。氏の歌詞は、一読しただけでは真に言いたいことを見落としてしまい、じっくり読んでも理解が追いつかない。そんな謎が行間のあちこちに潜んでいる。考えれば考えるほど単純ではない世界の深淵をのぞいてみませんか……?

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出典元:https://www.amazon.co.jp/

2022年6月18日に発売された、AKB48にとって59枚目となるシングル『元カレです』。前作『根も葉もRumor』に続いて本格的なダンス曲ということで話題を集めている。振り付けを担当したのは、BTSの『BUTTER』を担当したGANMI。センターに立つのは、昨年、韓国から帰国した本田仁美というのもポイントだ。

この曲は、ちょっとした三角関係を歌詞にしている。元カノ(と今カレ)と街中で鉢合わせてしまった元カレの心情がメインで歌われている。元カノと、その今カレに対して元カレの心が揺れ動きながらも、強がる気持ちを表明している――。ざっくり説明すると、そんな曲だ。

「揺れ動きながら」というのは、1番の「未練タラタラ」でよく分かる。あるいは、「仮定法過去完了」というワードからも伝わる。「仮定法過去完了」とは英語の構文の種類で、「もしあの時○○だったら、今頃~~していたのに」という英文法用語のこと。つまり、「俺とお前がまだ付き合っていたら、今頃どんな感じだったんだろうな」という、主人公の感情を乗せている。1番の序盤は未練を前面に出している。で、主人公=「俺」は1番の終盤で強がりはじめて、ラストで「最高の元カレです」と締める。

2番では、「あー、まだお前と付き合っていたかったなぁ」と悔恨の情を出しつつも、「でも、それはもう過去の話だしなぁ」と諦めが頭をもたげ、今カレに対しての怒りさえ込み上げてくるも、「最高の元カレです」で締める。

作詞はもちろん秋元康氏だ。氏はシングルを作詞する際、何かになぞらえる傾向がある。それは今後の当連載で徐々にひも解いていくが、単なる恋愛ソングを少なくともシングルでは(公演曲などは別として)書きたがらない。何かに当てはめると、すーっと解釈できることが多い。

では、この曲では何を何にたとえているのだろう?

主人公=元カレ=俺とはいったい誰のことなのか?

個人的に、もっともスッキリした解釈は、主人公=今のAKB48と捉えることだった。今のAKB48が、胸を張って、「いまのウチら、最高なんですけど、何か?」と強がっている。そう解釈すると現状とリンクする。

現状とは何かというと、世間を賑わせていた10年前のAKB48に対して、今のAKB48が「あの頃はたしかにすごかったと思います。一世を風靡していました。ウチらもあの頃を見て育ちましたし。でも、今のウチらだってすごくないですか?」と、鼻息も荒く宣言している状態を指している。秋元氏は今のAKB48をそう捉えているはずだし、個人的にも今のAKB48にはそう願っていてほしいと思っている。

今年3月20日放送の『関ジャム 完全燃SHOW』では「改めて作詞家・秋元康のスゴさとは何か?~その謎と答え合わせ~」と題した特集が組まれた。ここで氏は、「誰がその歌詞を歌うのか。誰が歌ったら説得力を持って届けられるのかということを一番に考える」(要約)と答えている。

この法則に照らし合わせれば、今のAKB48が何を歌えば大衆に届くのかということが発想のスタートラインになる。しかし、「今のAKB48」を主人公としてそのまま描いてしまうと、極めて狭い人にしか届かない。だから、恋愛という広い世界に落とし込む。これは氏がシングルで多用するテクニックだ。

元カレ(主人公)=「今のAKB48」だとすると、元カノ(嫉妬の対象)が「10年前のAKB48」で、今カレ(嫉妬の対象と良好な関係にある存在)が「10年前のAKB48を好きだった人たち、あるいは世間」ということになる。しかし、2番では嫉妬の対象が今カレに移っているので、主人公以外は代替可能。どちらでもいい。

ところが、取材をしていて、これとは違う解釈をしていた現役メンバーがいることが分かった。そのメンバーは「元カノが今のAKB48じゃないか」と話した。そういう解釈があるとは目からうろこだった。そのメンバーは、「久しぶりに鉢合わせてみたら、めっちゃいいじゃんと思われた元カノ=今のAKB48」と説明してくれた。それがもっとも感情移入しやすいのなら、第三者が文句を言う筋合いはない。

このようにいくつかの視点が成立するのが解釈の楽しさである。そもそも正解が決まっていないから、解釈することに意味が生まれる。秋元氏に「先生! これ、どういう意味なんですか?」と質問したところで、正解など返ってこないだろう。なので、来月以降も自由に解釈を続けていくつもりである。

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文/犬飼 華 イラスト/遊人

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