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やすすの世界 〜君はまだ 本当の秋元康を知らない〜 その5・HKT48『メロンジュース』を勝手に解釈

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作詞家生活40年以上。積み上げてきたその数は4500曲にも及ぶ秋元康氏のアイドルソング。この連載では氏が書いてきたシングルにスポットを当てる。氏の歌詞は、一読しただけでは真に言いたいことを見落としてしまい、じっくり読んでも理解が追いつかない。そんな謎が行間のあちこちに潜んでいる。考えれば考えるほど単純ではない世界の深淵をのぞいてみませんか……?

 先日、『坂田周大のいいねちょうだい』(RKBラジオ)をradiko聴いていたところ、坂田アナがゲストのHKT48・2期生の秋吉優花にこんな質問をしていた。

 「先日、シーナ&ロケッツの鮎川誠さんの訃報が入りましたけど、『LEMON TEA』という曲があるんですが、秋吉さんが最初に選抜された曲は『メロンジュース』でしたよね。どうも私、(『メロンジュース』が)『LEMON TEA』のオマージュじゃないかと思っていて。そういう話聞いたことあります?」

秋吉は「聞いたことないです」と答えたのだが、実は、この坂田アナの質問は『メロンジュース』発売時(2013年)に一部ファンの間でささやかれていた説でもある。『メロンジュース』の「♪あなたにあげたいメロンジュース」が『LEMON TEA』の「♪二人で飲みますレモンティ」のメロディとよく似ているのだ。

番組では、坂田アナが「博多のスピリッツがHKT48に流れているんですよ!」と主張していたが、果たして本当にそうなのだろうか?

 HKT48の『メロンジュース』。今から10年前の9月に発売された2ndシングル。翌年の『第65回NHK紅白歌合戦』に初出場したHKT48は、この曲を引っ提げて登場。勝負曲でもあり、HKT48で一番有名な曲ともいえる。

 私も『LEMON TEA』と『メロンジュース』の相似性についてはかねてから、「もしかしたら……?」と感じていた。メロディもさることながら、果物を使用した歌詞もそう。もっといえば、ともに福岡を拠点にしている(していた)ことからもオマージュを想像させる。

 シーナ&ザ・ロケッツは1978年に福岡で結成(のちに「ザ」を表記しなくなる)。当時、陣内孝則擁するザ・ロッカーズ、石橋凌のARBなど同地からロックバンドが多数輩出されたことから、彼らは「めんたいロック」と呼ばれた。

 めんたいロックの隆盛から数十年経った2010年頃。博多に腰を据えて活動するアイドルグループがいくつも登場した。HR、LinQ、そしてHKT48である。いわば、「めんたいアイドル」である。

 そんな状況をくみ取って、HKT48は『LEMON TEA』をオマージュしたのではないか――。

 真偽のほどは定かではない。やすすに聞いてみないとわからないし、聞いたところではぐらかされるだろう。

 仮にオマージュだったとしたら――。ここからはそんな仮定をもとに話を進めていくが、ではなぜレモンをメロンにしたのだろうか?

 メロンのほうがアイドルっぽいから? いや、レモンだってアイドルっぽいっちゃあアイドルっぽい。「レモン」をタイトルや歌詞に用いた曲はいくつもある(例:AKB48『檸檬の年頃』、NMB48『青いレモンの季節』、シュークリームロケッツ『想像上のフルーツ』など)。

 それとも、Wセンターの“めるみお”(田島芽瑠&朝長美桜)のペンライトカラーが緑だったとか? いや、これも調べてみたら違う。

 ここで、歌詞をもう一度読んでみる。

この曲はいきなり「♪あなたにあげたいメロンジュース」で始まる。どうやらメロンジュースは主人公(女子)の所有物のようだ。恋する女子が電車や通学路で好きな人を見かけるたびに思いを募らせていく、そんな曲だ。

サビに耳を傾けてみると、こんなフレーズがある。

「♪ちょっと大人ジュース」

 そうか、やすすの中でメロンは大人のイメージがあるのか。たしかにレモンよりメロンのほうが高価だ。お見舞いにはレモンよりメロンのほうがお似合いである。

 かといって、メロンが大人の象徴かというと、そこまでのイメージもない。

 歌詞の世界は、「通学路」という単語があることから、主人公は中学生か高校生だろう。ということは、青春っぽさが表現されている世界観ということ。だったら、なおさらレモンのほうが似合っていそうな気もする。

 もう一度よく考えてみる。主人公の女子は恋の成就を願っている。成就したら、大人の階段をひとつのぼれるのではないか。そう考えているようだ。

大人の階段をのぼる……? とすると、レモンよりもメロンのほうがしっくりする。レモンは甘酸っぱい恋の象徴で、メロンは(少なくともレモンよりは)一歩進んだ恋の象徴ということなのだろう。「ちょっと」だけ大人なジュースなのだから。

同時に、「メロンジュースをあげる」ことは、乙女ではなくなること。つまりはヴァージニティーを卒業する夢を見ていることを意味している。『メロンジュース』の主人公は、青春の第二形態に進みたがっているのだ。

ここで思い出されるのが、NMB48の『ヴァージニティー』だ。あの曲は、キスをしたって減るもんじゃないと男の子は思うかもしれないけど、いやいや、そんなことはないのよ。大切なもの(ヴァージニティー)は減っていくものなのよ――というもの。ヴァージニティーを守りたい主人公の曲だ。『メロンジュース』とは真逆ということになる。

そういえば、AKB48に『キスはだめよ』という公演曲があるが、あなたのことが好きだからこそ、まだキスはしないでね、という曲だ。

やすすの手にかかれば、ヴァージニティーというテーマひとつで、どんな角度からでもアプローチできるというわけだ。

 ちなみに、『LEMON TEA』はドギツい下ネタをモチーフにしているため、メンバーは知らないままのほうがよさそうだ。万が一、メンバーがこの原稿を読んで興味を持っても、調べないように!

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文/犬飼 華 イラスト/遊人