山下剛一と山末あつみが選ぶ2023年のアイドルソング
PROFILE
山下剛一
アイドルグラビア/写真集編集者。ガラスガールでは、インタビューや『寺田寛明の2万6千500歩』を担当。
山下剛一が選んだのは……MyDearDarlin’『真夏の彼方』
2023年は続々新曲リリースで、そのどれもが見事なクオリティーだったマイディア。河口湖ワンマンで披露した夏の新曲ではスローから入るスケールの大きな『プラネタリウム』のインパクトが強かったが、個人的にはサビのメロディーのブリティッシュトラッド味が印象的なこちらの曲が今年のベスト。トラッドといえば、サイモン&ガーファンクルのヴァージョンでおなじみ『スカボロー・フェア』に代表されるように、儚く無常感に満ちた美しさのイメージが強いが、アッパーなリズムに乗ると一転して魂を鼓舞するような勇壮さが前面に出てくる。この曲はもろ後者で、タイトル通り雲ひとつない青空に突き抜けるような爽快さが圧巻。アンセム感を見事に強調しているマーチング的なドラムアレンジも素晴らしい。初めて聴いた後に最初に連想したのが、フェアポート・コンヴェンションの『THE DESERTER』だったのだが、改めて双方を聴き返してみると、咲真ゆかのハスキーでスモーキーな独特の声が、サンディ・デニーにかなり似てることに気づいた。添付の初披露時の動画、アイドル本来のアップリフティングな魅力の極みのような、弾けるパフォーマンスをぜひ堪能して頂きたい。
山末あつみが選んだのは……クマリデパート『魔法少女Q』
“世界のこころのデパート”をコンセプトに活動する『クマリデパート』が6月にリリースした11枚目のシングル『魔法少女Q』。4分17秒の中に、アニメ一話分を見終わった満足感とてんこ盛り感!一瞬もブレることのない力量で魔法少女としてのクマリデパートが描かれている一曲です。楽曲面だけでなく、メンバーの個性に合わせて作られた衣装、キャラクターショーのような振付、最近の魔法少女モノには不可欠な“妖精”がいるなど、皆の頭の中になんとなくある“魔法少女”という概念を見事に具現化しています。
そして何より、それらを違和感なくこなせるメンバーのコンセプト消化力が素晴らしい!初めて聴いた時に、さまざまなシーンが頭に浮かび、逆になぜ『魔法少女Q』という番組が存在していないのか疑問に感じるほどでした。例えば……。「お花が好きな優雨ナコちゃんを喜ばせようと、妖精さんが街中をお花だらけにして、困った優雨ナコちゃんと妖精さんがケンカしちゃう回」、「ラーメンが大好きな山乃メイちゃんが、ラーメンを食べたいのにお店が定休日で、皆で美味しいラーメンをつくる回」、「お歌が大好きな楓フウカちゃんが風邪をひいちゃって、歌えなくなるけど、皆がその分をカバーしてくれて、皆の大事さに触れる回(ちなみに、この時ラストで元気になったフウカちゃんが披露したのがソロ曲『あたしえんじぇるべいびーふうかちゃん』)」。などなど……、聴いた瞬間から『こんな魔法少女Qが観たい!』をずっと妄想していました。
個人的に、初めてクマリデパートを観た時に、“クマリデパートって魔法少女のようなグループだなあ”と感じていました。歴代の魔法少女(変身ヒロイン)モノって、大体どれも登場人物は最初から完璧ではなくて、いろんな困難や失敗を乗り越えて、成長していく。そんなところに、クマリデパートの物語を重ねていました。ここまで、心をわくわくさせてくれる『魔法少女Q』という楽曲に出会えてよかったと思えた2023年でした!……ちなみに、数年後、ちょっと成長したクマリデパートが主演の『帰ってきた!魔法少女Q』の主題歌は、カップリングの『ヒ・ミ・ツ』です。