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群青(タイトル未定)
彼女たちの拠点である北海道から最も離れた都道府県・沖縄で撮影されたMV。
アイドルMVはメンバー自身を主軸に描くことが大半だが、この作品は「文学賞に落選し、落ち込んでいる女性」を主人公に置き、タイトル未定は彼女をそっと見守る妖精のような存在として出演する。その立ち位置自体、歌と存在で我々の背中をそっと押してくれるタイトル未定そのもの。撮影プランとして想定されていたのか定かではないが、沖縄にもかかわらず全編通して曇天の少し暗めの映像なのもポイント。
小ネタだが、主人公が落選メールを見る冒頭のシーンで「toomanyyamayama@〜〜(たくさん、やまやま)」という主人公のメールアドレスが映る。日々の生活の中でいろんな鬱憤を溜めて沖縄にたどり着いた、という設定があらわれているのかもしれない。
黒い羊(欅坂46)
平手友梨奈のカリスマ性が沸騰点を超えた時代に作られたMV。これ以上ない“問題作”と言っていいだろう。5分37秒、長回しワンカットの“叫び”とも言える。
彼岸花を持ち、暗闇のビルの中を徘徊する平手。それぞれの人生に絶望しているメンバー。そんな“他者”を抱きしめ、ときに拒絶され、疎まれ、ときに受け入れられていく。
暗闇に包まれた世界で彼女たちは歌う。「同じ色に染まりたくないんだ」と。
彼女たちが伝えるのは「多数派になるな」「悪目立ちを恐れるな」。『サイレントマジョリティ』から、まっすぐにそう叫んでいる。その声は、2019年にこの域まで到達したのだ。
少女たちの葛藤や絶望は、高いクオリティの美術と強く激しい演技により、解像度を上げていく。見ていて鳥肌が止まらない。涙腺がいつの間に支配されている。
この時期の欅坂46は、前衛演劇と映像芸術の到達点へと突っ走っていた。
いや、今見ても恐ろしい。ウソみたいだろ。アイドルのMVなんだぜ。これで…。
くらっちゅサマー(夢みるアドレセンス)
サムネの可愛いさの期待を裏切らない可愛さがある
5人のビジュアルとスタイルの良さと夏のフレッシュな感じがしっかり出ている。曲に合わせた本人たちの表情、動き、カメラワーク、全体の構成もバチっとハマっている。
そして冒頭からバックに水着の女の子たちをしたがえているのがすごい。普通に女の子を踊らすのではなく水着というのがバブリー? だし、賑やかさが圧巻だ。そして勝手に序列なのかピラミッド的なことを考えたりしてしまう。そういう想像をさせてくれる部分を作ってくれているのも最高だ。
後半にラムネシーンや水に濡れるシーンとかも入れていて一辺倒ではない展開が楽しいので、一見の価値あり!
クリームソーダのゆううつ(tipToe.)
クラスの中で、別に目立つわけではない。2列先の席に座っている、等身大のクラスメイト。どこにでもいる少女たちがしずかに燃えて“アイドル”をしている。それがtipToe.だった。
そんな彼女たちのしずかな恋心を歌った名曲。アイドルソングで「クリームソーダ」を歌った曲といえば、『クリームソーダのゆううつ』をあげる人は多いだろう。
ただ少女がゆっくりと「好きなあの人」が通り過ぎるのを喫茶店で待つという内容。喫茶店の椅子に座って待つメンバー。どこにでもいる恋する少女たちの横顔は、リアルで尊くて美しい。シュワシュワと炭酸を弾くクリームソーダーの緑と、彼女たちの制服の白が、ゆううつな時間に溶けていく。
好きな男子を待つ少女の横顔を見つめる3分58秒。贅沢でゆううつな青春に浸れることだろう。