アイドルのミュージックビデオには、古今東西、多くの名作がある。そんな名作MVを紹介していく『古今東西アイドル広辞苑』。
不定期連載の第2回目は、「か行」。ガラスガール編集部による、名作アイドルMV広辞苑。ぜひ浸って下さい!!
【か】
開幕自分宣言(きのホ。)
ポップで勢いのある音楽にピッタリな、メンバーの写真を切り抜いてのコラージュアニメーションが弾け飛ぶ。ワクワクが止まらない!
メンバー全員の個性を収めたスクラップブックをどんどん開いていくような楽しさ。1分12秒からの転調&盛り上がっていくパートは、何度見ても胸の握り拳に力が入ってしまう。
こんな感情を揺さぶられるコラージュアニメーションは他に見たことがない。謎の感動と中毒性をあなたに。
風を待つ(STU48)
瀬戸内海に面した山が迫る立地である広島県尾道市で、ドローンを用いたワンカット撮影に挑んだSTU48の2ndシングルMV。100段を越える階段をのぼり、初めて踊るコンテンポラリーダンスに苦戦しながら、メンバーは拓けた高台まで向かっていく。
このMVの面白さのひとつに、2日間にわたって撮影した全10カットのうち、不備があった2カットを除く「選ばれなかった7カット」まで公開されていることがある。天候や時間帯が異なるそれぞれのカットから、メンバーの懸命な努力を何度も感じ取ることができる、新鮮な企画だ。
カットがかかるところまでたどり着くだけでハードな撮影ということは手に取るようにわかるため、どのカットでも映っている声を上げてはしゃぎ喜ぶメンバーの姿に胸が熱くなり、遠方に映る尾道水道や瀬戸内海に浮かんだ向島がより美しく見える。
帰り道は遠回りしたくなる(乃木坂46)
「運命には分かれ道がある」をテーマに撮影された西野七瀬の卒業シングルのMV。西野扮するごく普通の女子高生の人生が、“眼鏡を落とす”という小さな出来事から「美大に進む/アイドルとしての日々を歩む」というふたつの道に分岐していく様を描いている。
卒業シングルらしく、特技「絵を描くこと」や彼女のオリジナルキャラクター「どいやさん」、秋元真夏との“おかえり”など、西野七瀬のパーソナリティやエピソードがストーリーの中にふんだんに盛り込まれている。
そんな愛あふれる作品の面白さの中、特筆すべきは、「美大生・西野七瀬」と「アイドル・西野七瀬」は決してパラレルワールドではなく、同じ世界線に存在することだ。
ライブ会場でのラストシーン、美大生・西野は自らがアイドルグループのセンターに立っている姿を想像し、アイドル・西野もまた、友人たちと観客席で楽しむ自分をイメージする。ただ、どちらの西野にも「自分が選ばなかった道」へのネガティブな感情はなく、自分の人生、相手の人生に対する肯定的な表情を浮かべている。
“違う道を選んだ意味 輝く未来のためと”。監督・関和亮はそんなワンフレーズの歌詞に則りつつ、西野七瀬のこれからを肯定したのだろう。
仮契約のシンデレラ(私立恵比寿中学)
2012年の私立恵比寿中学のメジャーデビュー曲。当時、界隈でそう語られており、さらにのちの楽曲タイトルの元ネタにもなった「King of 学芸会」のキャッチコピーのとおり、プロフェッショナリズムにはあふれているものの、おそろしいまでにどこかユルいグループのありようを的確に表した杉山勝彦のリリック、メロディ、アレンジからグループの出世作と呼ばれる1曲だ。
そのMVは楽曲の評価をさらに強化する内容に。歌詞にのっとって「シンデレラ」の物語をなぞりつつ、純昭和なお茶の間を舞台にホームコメディ風の“なにか”を繰り広げる、なんじゃこりゃ?的な”なにか”と、スターダストプロモーション由来のアイドルグループならではのコミカルかつタフなダンスで魅せる、やっぱり“なにか”と言うほかない“なにか”に仕上がっている。