昨年末に19周年を迎え、今年20周年イヤーへ突入したAKB48。
そんなタイミングで、AKB48が「国民的アイドルグループ」へと階段を上っていった瞬間を振り返ろうという当連載。この長い歴史を振り返えれば、2025年の明日が見えてくる!
スタッフに手足を抱えられて運ばれているメンバーもいた
私は日本武道館の舞台裏へと急いでいた。今しがた発表された“組閣”でメンバーは何を感じたのか。それを目撃したかったのだ。8月23日の夜のことだ。
武道館の裏側に入るのは初めてで、どこへ行けばいいのやらわからなかったものの、騒がしい方へと走ると、ステージから降りてきたばかりのメンバーたちがそこに溜まっていた。
コンサートの疲労ではなく、明らかに組閣のショックでうずくまっているメンバーばかりだった。うずくまるだけならまだマシで、嗚咽するメンバーもいれば、スタッフに手足を抱えられて運ばれているメンバーもいた。顔が見えなかったので、それが誰なのかはわからないが、とにかくぐったりしていた。
すごい光景を目の当たりにした。実際に見たことはないが、さながら野戦病院だった。あるメンバーに「今の誰?」と目で合図を送ったが、彼女も首を傾げるだけだった。
しばらくすると、高橋みなみがマネージャーの肩を借りながら歩いてきた。高橋は泣き崩れていた。足腰に力が入らず、一人では歩けない状態だった。
「うっ、うっ、うっ……」
声にならない言葉を吐いていた。ステージ上では“組閣”という、大人の考えたことを一旦は飲みこもうとしていたが、そう簡単に飲み込めるものではない。舞台裏では感情を爆発させていた。この時点ではまだ総監督に就任していなかったとはいえ、グループをまとめる立場にあった彼女の弱々しい姿を見るのは初めてだった。いや、高橋だけではない。アイドルが、いや人間がここまで弱っている姿を目撃したことがなかった。
「なんだ、これは……」
ここに長居してはいけないと感じ、私はそっと出口へと向かった。というよりも、凄惨な現場を直視できず、その場から逃げたのだ。
帰宅してからも、組閣のことが頭から離れない。AKB48のサプライズ路線はこの武道館から始まった。客の目の前であえて事件を起こす。その発表は、ファンはもとより、メンバーすら知らない。メンバーが喜怒哀楽をもろに出す場面をあえて見せる。観る側も演じる側も感情の整理がつかない。それはいい意味でも悪い意味でも刺激的だった。
武道館から数日経ったある日、メンバーを取材した。テーマはもちろん組閣。正規メンバー48人全員だ。1人10分を想定していたが、その程度の時間でぐちゃぐちゃになった感情を語りきれるわけはなかった。
朝から晩まで14時間ほどかかった。もっとも印象的だったのは、河西智美が泣いたことだった。目の前でアイドルに泣かれるのは初めてだった。河西がチームKを愛していたことは知っていたが、涙を流すほどとは思っていなかった。