メンバーが呼ばれるたびに武道館がどよめく
『言い訳Maybe』は8月26日に発売され、オリコン週刊チャート2位を記録した。AKB48は確実に力をつけていた。発売に先駆けた22日と23日には、初めての日本武道館コンサートが開催された。観客が7人だったグループが武道館にたどり着いたのだ。
初日の本番を前に、武道館を背景にして“囲み”が行われた。AKB48がこうしたメディア対応をするのは珍しかった。テレビ局やスポーツ新聞など、これまでAKB48を扱ってこなかったメディアが大挙して押し寄せていた。その数、40~50人。ここまで多くのメディアが押し寄せたのは、私の記憶にはなかった。アイドル雑誌以外がAKB48を取り扱い始めたのだ
取材陣に意気込みなどを訊かれて答えるメンバーを見て、私は質問しようか迷っていた。というのも、このコンサートのタイトルが「AKB104選抜メンバー組閣祭り」だったからだ。私は「組閣祭り」というワードに引っ掛かっていた。総選挙がいわば“組閣”だったわけで、それはもう7月に終わっている。選抜メンバーは出揃っている。なのに、今さら何を“組閣”するというのだろう。意味がわからなかった。挙手しようか躊躇しているうちに質問タイムは終わってしまい、タイトルの謎は謎のままになった。
コンサートは2日間で3公演行われた。3公演目ではいくつか発表があった。ニューヨーク公演、ミュージカルの開催などが発表された後、タキシードに身を包んだ戸賀崎智信AKB48劇場支配人が登壇した。武道館に緊張が走る。彼は「AKB48新内閣を発表いたします」と淡々と語り始めた。「今回より各チーム、キャプテン制を導入しまして……」と続ける。動揺するメンバーをしり目に、スタッフがキャプテン3人(高橋みなみ、秋元才加、柏木由紀)にプラカードを手渡す。プラカードを持ったキャプテンの元にメンバーは集まれという意味だ。メンバーが呼ばれるたびに武道館がどよめく。板野友美がチームKと発表されると、ひときわ沸いた。
メンバーは自身の所属するチームに思い入れを抱いていた。それはファンもまた同様だった。基本的に公演はチームごとに行われるから、自分の推しメンを観に行くことは、そのチームの公演を観に行くことと同義だった。そうすると、ファンはそのチームに自然と愛着を持つようになる。
そのチーム文化を破壊して、イチからチームを始めなさい。それが「組閣祭り」の正体だった。
選抜総選挙にしても、この「組閣祭り」にしても、ステージ上で起きているものをそのままファンに見せることが醍醐味だった。そうか、これがAKB48なのか――。そんなことをなんとなく感じた。
私はバックステージに行けるパスを持っていた。終演後、そのまま帰宅する気にはなれず、すぐさま2階席から舞台裏へと直行した。今、何が起きているのか。それをそのまま書きたかったのだ。
すると、そこには野戦病院のような光景が広がっていた。
※次回の配信をお待ちください。
文/犬飼 華