お祭り的な楽しいイベントの一環かなと感じた
年が明けた2009年、業界は新しい試みが動きだしていた。ひとつは『Push★1』という名のイベント。これは、タレント事務所が推薦する16名の新人アイドルがトーナメントで己の魅力を競い合うという新規イベントである。その第1回大会は1月31日に開催された。規定時間内に特技などを披露して魅力を競うのだが、優勝したのはホリプロ所属の桃瀬美咲。百瀬は2008年秋のタレントスカウトキャラバンで審査員特別賞を受賞していた。
もうひとつは『AKBアイドリング!!!』だ。AKB48とアイドリング!!!という2つのグループが選抜メンバーを出し合い、16人のユニットで活動するというのだ。AKBアイドリング!!!は、件の『Push★1』でお披露目をしている。両者は連動したムーブメントだった。
ところが、『Push★1』にしても、『AKBアイドリング!!!』にしても、長続きしなかったし、大きな話題を生むこともできなかった。
その現場に居合わせた私は、「どこか違う」と感じていた。たしかに、その場は盛り上がっている。だが、大きな意味で求められているものは、そうではない。もっといえば、AKB48が市民権を得られていないのは、根本的なズレが生じているからではないかと考えていた。しかし、そのズレが何なのかを言語化できないままでいた。
AKB48はAKB48で活動を続けていた。3月4日にはシングル『10年桜』を発売。セールスは初めて10万枚を突破し、オリコンチャート3位を記録した。枚数も順位も徐々に上がってきていた。だが、まだ爆発はしていない。
AKB48は、4月25~26日にはNHKホールにてコンサートを開催。チケットがないというので、私はカメラマンのアシスタントとして半ば無理やり観戦させてもらっていた。26日の夜公演は大島麻衣、川崎希、早野薫らの卒業式が行われた。この卒業式を私は観たかったのだ。
このコンサートでいくつかの発表がされた。シングル『涙サプライズ!』の発売、全国ツアーの開催などにまざって、聞き慣れないイベントを開催するという。それは『選抜総選挙』だった。なんでも、次のシングルの選抜メンバーをファン投票によって決するのだという。
この時点で、私はお祭り的な、楽しいイベントの一環かなと感じた。いや、正確にいえば、前例がないイベントなので、過去の何かと比較する事ができなかったから、どんなものになるのか、想像すらできなかった。
もっといえば、この「選抜総選挙」がどんなイベントになるかなんて大して考えておらず、それよりも大島麻衣が抜けたAKB48はどうなるんだろうなんてことをぼんやり考えていた。
初めてのことに対しては、具体的なイメージを持つことができない。「選抜総選挙」が政治のそれのように「現政権を一回なしにして、改めて国民(ファン)に信を問うという類のイベント」だとして、のちに地上波で生中継されるようなコンテンツに成長し、1位のメンバーに何十万という票が入るなんて微塵も思わなかった。
私はカメラマンたちとコンサートの感想をあれこれ言いながら帰途に就いた。『選抜総選挙』のことが話題にのぼることはなかった。その程度のものと思われていたのだ。少なくとも7月8日までは――。
※次回の配信をお待ちください。
文/犬飼 華