日々、歌って踊るライブアイドルたちの顔として働くアイドル楽曲。トラックや歌詞といった楽曲そのもののほか、グループの世界観を伝えてくれるのが「CD&配信ジャケット」だ。
ガラスガールでは今回、アイドルにまつわる3名にそれぞれが愛するジャケットを自由に3枚ずつ選んでいただいた。彼らが選んだのはどんな3枚なのか? そして、「アイドルのジャケット」に重要なファクターとは? 一挙紹介していこう。
南波一海が選ぶ「アイドルの“神ジャケット”」
PROFILE
南波一海
なんば・かずみ
音楽ライター。近年はアイドルをはじめとするアーティストインタビューを数多く行ない、その数は年間100本を超える。毎月第一木曜、タワーレコード社長・嶺脇育夫氏との配信番組『南波一海のアイドル三十六房』を配信中。
★南波一海が思う「アイドルのジャケットに重要な要素」とは?
アイドルに限ったことではありませんが、ジャケットを見ると頭の中で音楽が流れ出すようなものがいいのかなと。そうしてサウンドとビジュアルが結びつくのであれば、両者は一見無関係なものでもよくて、たとえ最初に見たときはいまいちわからなくても、最終的には「この音にはこのイメージがぴったり」だと思えるようなものに出会いたいです。「アイドルのCDジャケットは衣装を着たメンバー本人が写るもの」というイメージにとらわれすぎなくてもいいのではと常々思っています。
★南波一海が選んだ“神ジャケット”1枚目
3776『3776を聴かない理由があるとすれば』(2015年10月28日リリース)
富士山のご当地アイドル3776(みななろ)のファーストです。白と青を上下に配色し、その切り替え線に両手を添えて日本で最も知られる名山を描き出しています。手数は最小限で、誰にでもできるんだけれど、誰にも思いつかなかった発想。これぞデザイン。口を開けて見上げる井出ちよのさんのなんとも言えない表情も素晴らしいです。
アルバム自体は、富士山の標高3776メートルを毎秒1メートルで3776秒かけて登っていくという内容。道中のガイドを楽しく聴きながら山の頂きに辿り着く頃には、実際の富士登山にも似た(?)達成感を覚えます。ご当地アイドルだからこそ成し得た、日本のポップス史における屈指のコンセプト・アルバム。
★南波一海が選んだ“神ジャケット”2枚目
ネムレス『BOSSS RUSH CORE』(2022年4月1日リリース)
このお題をもらったときに、真っ先に思いつきました。ブレイクコアを歌うワン&オンリーな存在、ネムレスのアルバムです。
最近では一番感動したアートワーク。透明のゲートフォールド(見開きジャケット)に銀ベースのステッカーを差し込むことで成り立っていて、実物は画像で見るよりもずっとインパクトがあります。表4(裏表紙)はCDの形に合わせてぐるっと曲名が並んでいるのですが、これも透明だから意味のあるもの。歌詞カードも工夫が凝らされていて、たくさんの歌詞(17曲分!)を限られたスペースにいかに収めるかが考え抜かれているのも見事なお仕事。情報量の多い音楽性をデザインが物語っていると思います。
★南波一海が選んだ“神ジャケット”3枚目
RYUTist『きっと、はじまりの季節』(2019年10月29日リリース)
新潟のグループのシングル。自分のレーベル『PENGUIN DISC』からリリースしたものです(宣伝っぽく見えるのは僕自身いやなのですが、出てから大分経っているのでいいかなと!)。
これもジャケット画像だけだとわからないかもしれませんが、実際は3層になっていて、 紙の上にフィルム2枚を重ねてこの形になります。CDの盤面も「ジャケットに合わせて透き通った立体感のあるものを」と考え、読み込む部分は8cm CDになっていて、外周は透明板の特殊仕様に。収録分数の短いシングルだから実現できました。
ストリーミングの時代なので、CD、特にシングルCDの在りかたは考えないといけないな……というのがRYUTistのプロデューサーと自分の中で(ちょっと強迫観念的に)極まっていた頃の作品です。もし、今これをやらうとしたら、レーベルのスタッフに「予算オーバーです」と言われると思います(笑)。